幼少の頃、転んで擦り傷が出来ると、いつも塗られていた謎の薬があった。
手のひらサイズの二枚貝に収納されていたので“貝の薬”と呼んでいた。
赤色のジェル状で、出来の悪いハンドクリームのような匂いがして不快だったが、効き目は抜群。それを塗ると、たちどころに傷口が治ってしまう。
祖母がくれたものらしく、無くなる度に補充されていた。そういうわけで、ケガをした時、貝の薬を塗ることが当たり前だった。
その後、容器が貝殻ではなくなり、ジャムのようなビン詰めの容器に変化。それでも、貝の薬と呼び続けていた。
時が経つにつれて無くなってしまい、母親に手に入らないのかどうか聞いたところ「ばあちゃんがどこで手に入れてきたのか分からない」とのこと。
度々、友人達に貝の薬の話をしても「そんな薬は聞いたことがない」と誰一人として知っている人はいない。
あの薬は一体どんな成分だったんだろうか…。今となっては幻の塗り薬だ。